近年、環境規制の強化やサステナブル社会の実現に向けた取り組みが世界中で進んでいます。
その中で、建築資材、電子機器、医療分野など幅広い用途に使用される「シリコーン」のリサイクル技術が注目を集めています。
シリコーンは耐久性・耐熱性に優れる一方で、分解しにくいという特性から、廃棄時の処理が課題となってきました。
本コラムでは、シリコーンのリサイクルに関する最新技術と直面する課題についてご紹介します。
1.シリコーンリサイクルの必要性
1-1.廃棄物削減と環境負荷低減
シリコーンは高分子材料であり、自然環境下での生分解性が極めて低い素材です。
建築物や産業設備から発生する使用済みシリコーンは焼却や埋立処理されることが多く、その際に二酸化炭素や一部の副生成ガスが排出されます。
特に埋立の場合は、長期間にわたり土壌や地下水に残存する可能性も指摘されています。
こうした背景から、廃棄物量の削減と循環利用は急務とされています。
1-2.資源確保とコスト低減
シリコーンの原料は、ケイ素(シリカ砂)をクロロシランに変換する化学工程を経て製造されます。
この工程は高温・高エネルギーを必要とし、さらに副生成物として塩化水素などを発生させるため、環境負荷も大きいのが現状です。
リサイクルによって既存製品を原料に戻すことができれば、製造エネルギーの大幅削減と資源の有効活用につながります。
2.主なリサイクル技術のアプローチ
2-1. メカニカルリサイクル(物理的再生)
廃シリコーンを粉砕・粉末化し、充填材やゴム製品の改質材として再利用する方法です。
例えば建材のシーリング材や工業用ゴムの一部に配合することで再活用が可能です。
しかし、この手法では分子構造を変えられないため、機械的特性や柔軟性が低下しやすく、高機能用途への再展開は困難とされています。
2-2. ケミカルリサイクル(化学的分解)
触媒や高温プロセスを用いてシリコーンを低分子のオリゴマーやモノマーに分解し、再び高純度シリコーンへと再合成する技術です。
この方法は「水平リサイクル(同等品質への再利用)」が可能である点が大きな魅力です。
ただし、エネルギーコストの高さや反応効率、副生成物の処理方法といった技術的課題が残されています。
現在は研究段階ですが、製造プロセスの省エネルギー化や新規触媒の開発により、実用化が進むと期待されています。
2-3. サーマルリサイクル(エネルギー回収)
シリコーンを燃焼させ、熱エネルギーとして回収する方法です。
一部ではセメント原料の代替や発電への利用が進んでいますが、シリコーン特有の耐熱性の高さから効率は限定的です。
また資源循環にはつながらず、リサイクルというより「最終処分」に近い性格を持っています。
3.産業分野ごとの具体的取り組み
3-1. 建築・インフラ分野
ビルや住宅の防水・シーリング材として使用されたシリコーンは、解体時に大量に発生します。
しかしコンクリートや金属部材と密着しているため、分離・回収が難しいのが現状です。
近年では、リサイクルしやすい組成設計や「解体時に剥離しやすいシリコーン」の研究も始まっており、循環利用に向けた取り組みが進められています。
3-2. 電子・電気機器
絶縁材や放熱材に用いられるシリコーンは、複数の素材と複合化されていることが多く、分離回収が最大の課題です。
そのため、現状では製造工程で発生する端材を粉砕して再利用する「製造副産物リサイクル」が主流となっています。
一部メーカーでは、ケミカルリサイクルを利用して半導体グレードに近い高純度品を再生する実証研究が始まっています。
3-3. 医療分野
人工関節やインプラント、カテーテルなど医療用途のシリコーンは、生体適合性が重視されるため、基本的に再利用は認められていません。
ただし、研究段階では「分解・精製後に医療用グレードとして再利用する」可能性が模索されています。
今後は規制当局の承認や安全性試験を経て、医療廃棄物の削減に寄与する可能性もあります。
4.今後の展望と課題
4-1. 技術的課題
ケミカルリサイクルの確立は大きな期待を集めていますが、触媒コスト、エネルギー効率、副生成物の処理、そして再生品の安定的な品質確保が課題です。
さらに、廃シリコーンの効率的な分別・回収インフラの整備も重要であり、自治体や産業界全体での取り組みが不可欠です。
4-2. サステナビリティと制度設計
持続可能な循環を実現するには「リサイクル可能な設計(Design for Recycling)」が求められます。
たとえば、将来の解体や回収を見越したシーリング材の配合や、分別を容易にする製品設計が進められています。
また、メーカー責任の拡大や自治体との協働による回収スキームづくりが、今後の制度面での大きな鍵となります。
まとめ
シリコーンは、その高い耐久性・機能性ゆえに幅広い産業で不可欠な素材ですが、廃棄時にはリサイクルが難しいという課題があります。
現在、メカニカル・ケミカル・サーマルの各リサイクル技術が開発・検証されており、特にケミカルリサイクルは新品同等の再生を可能にする有望なアプローチです。
一方で、コストや回収体制など多くの課題が残されており、産業界と社会全体での取り組みが不可欠です。
シリコーンリサイクルの実現は、循環型社会の確立に向けた大きな一歩となります。
今後の技術革新と制度整備によって、シリコーンが「使い捨てられる素材」から「循環する素材」へと進化することが期待されています。
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