現代社会では、自動車や電子機器、航空宇宙といった多くの産業分野で「高温環境に耐えられる素材」が求められています。
エンジン周辺部品やパワー半導体はもちろん、近年では電動自動車のバッテリーや再生可能エネルギー関連の設備でも、200℃を超えるような温度環境で長期間安定して使用できることが重要になっています。
その中で「シリコーン」は、有機材料と無機材料の特性を併せ持つハイブリッド素材として注目されています。
シリコーンは高い耐熱性に加え、柔軟性・絶縁性・耐候性といった多様な特性を兼ね備えており、まさに「過酷な環境に強い素材」として産業の裏側を支えています。
本コラムでは、シリコーンの高耐熱性の仕組みとその応用事例、さらに今後の展望についてわかりやすく解説します。
1.シリコーンにおける高耐熱性の基盤
1-1.分子構造に由来する安定性
シリコーンの最大の特徴は、主骨格に「Si-O-Si(シロキサン結合)」を持つことです。
この結合は炭素原子同士の結合よりも強固で、熱や酸化による分解に耐えやすいという特性を持ちます。
そのため、-50℃の極低温から250℃前後の高温まで、柔らかさや特性を保つことが可能です。
言い換えると、シリコーンは「高温でもゴムのように柔軟性を失わず、プラスチックのように脆くならない」素材なのです。
1-2.酸化・加水分解への耐性
高温下では、空気中の酸素や水分が材料を劣化させる原因になります。
一般的な有機ゴムは数年で硬化やひび割れを起こすことがありますが、シリコーンは構造が安定しているため、酸化進行が遅く、水分による加水分解にも強い性質を持ちます。
その結果、「長寿命で交換頻度が少ない」=メンテナンスコスト削減につながるという点が、多くの産業で採用される理由です。
2.高耐熱シリコーンの主な応用分野
2-1. 自動車産業
自動車はシリコーンの代表的な活躍分野です。
エンジンルーム内は150〜200℃を超える環境になることがあり、ホース・パッキン・ガスケット・点火ケーブルの被覆材などにシリコーンが使われています。
さらに、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)では、バッテリーやインバーター周囲で発生する熱を効率よく逃がすために、放熱シリコーンが欠かせません。これにより、安全性と寿命の両立が可能になります。
2-2. 電子・電気機器
電子機器の小型化・高出力化に伴い、半導体や基板は発熱が増加しています。
ここで重要なのが、「絶縁性」と「放熱性」を同時に実現できる材料です。
シリコーンは高耐熱で電気を通さない性質を持ち、さらに熱伝導性フィラーを加えることで、放熱と絶縁の両立を可能にします。
これにより、インバーターやパワーモジュールの寿命を延ばし、信頼性を高めています。
2-3. 航空宇宙・産業機械
航空機やロケットの内部では、1000℃近い高温環境や強い振動が発生します。
シリコーンは耐熱性だけでなく柔軟性を持ち合わせているため、振動や衝撃にも追従し、「壊れにくいシール材」や「断熱材」として利用されます。
また、工業炉や高温配管のシーリング材など、産業機械でも活用範囲が広がっています。
3.次世代技術を支える高耐熱シリコーン
3-1. 耐熱改質シリコーン
近年、耐熱性能を飛躍的に高めた改質シリコーンが登場しています。
従来のシリコーンは概ね250℃程度までが使用限界でしたが、新しい改質シリコーンは300℃を超える高温下でも化学的安定性を維持できるようになりました。
これは、素材の分子構造を工夫し、熱による劣化や変形を抑える改質技術の成果です。
この耐熱性の向上により、急速充電が求められる次世代の電気自動車(EV)の充電システムや、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー設備といった、高温環境での運用が避けられない分野でも安心して使用できるようになりました。
言い換えれば、熱による性能低下のリスクを大幅に減らすことで、機器の長寿命化と安全性向上に大きく貢献しているのです。
3-2. サステナブル素材への進化
素材開発の現場では「環境への負荷を抑えながら、性能をさらに向上させる」という考え方が強く求められています。
シリコーンも例外ではなく、従来の高機能性を維持しつつ、環境負荷を低減する方向で進化を遂げています。
具体的には、揮発性有機化合物(VOC)の排出を抑えた低VOCタイプのシリコーンや、使用後に回収・再利用できるリサイクル可能なタイプ、さらに植物由来の原料を組み合わせたバイオマス複合シリコーンなどの研究が活発に行われています。
こうした取り組みにより、従来の耐熱性や耐久性を損なうことなく、地球環境にやさしい「持続可能な耐熱素材」としてのシリコーンの可能性が広がっているのです。
4.今後の展望と課題
4-1. 技術的課題
シリコーンは高耐熱で優れた素材ですが、一方で「機械的強度」や「耐摩耗性」はそれほど高くありません。
今後はフィラー技術や新しい架橋方法により、耐熱性と機械強度を両立させる研究が進められています。
4-2. 市場拡大への期待
自動車の電動化、再生可能エネルギーの普及、宇宙産業の拡大といった潮流は、いずれも「高温環境で信頼性を発揮できる素材」を必要としています。
こうした背景から、高耐熱シリコーンの需要は今後ますます拡大するでしょう。
まとめ
シリコーンは、その独自の分子構造により、「高温に強く、長寿命で、信頼性の高い素材」として産業の幅広い分野に不可欠な存在となっています。
自動車、電子機器、航空宇宙などでの利用に加え、改質シリコーンや環境対応型シリコーンの登場により、応用範囲はさらに広がっています。
高耐熱シリコーンは、過酷な条件下で安全性と効率を確保する「縁の下の力持ち」。
持続可能な社会を支える素材として、その重要性は今後さらに高まっていくでしょう。
シリコーン製品の詳細や購入については、シリコーンテクノにお気軽にお問い合わせください。